タイトル

科目名[英文名] 価値と情動の認知科学[Cognitive Science of Human Nature] 
担当教員[ローマ字表記] 松井 三枝[MATSUI, Mie] 
科目ナンバー GITD1101A  科目ナンバリングとは
時間割番号 73C00a.101  科目区分 ----- 
講義形態 講義  開講学域等 共通教育 
適正人数 99人  開講学期 Q1 
曜日・時限 月1  単位数 1単位 
授業形態   60単位上限  
対象学生 全学生(共通教育科目に係る卒業要件未充足の2年以上優先) 
キーワード 【遠隔】最終日は【対面】 認知科学、認知、認知能力、価値、情動、知覚、記憶、認知バイアス、言語、意味、心の理論、共感、道徳、脳神経科学、人間の進化  
講義室情報 総合教育2号館 D10講義室(対面と遠隔(オンデマンド)の併用) 
開放科目 ----- 
備考 ----- 

授業の主題
ヒトがヒトであることを可能にしているのは脳の大きさに由来する知的能力であると考えられてきた。ヒトは概して以下のような理知的な存在だと認識されてきた。

自分たちの世界を客観的に認識できる。
世界についての情報を正確に蓄えられる。
情報を論理的に処理し複雑で困難な問題に対処できる。

このような明晰な認知能力によってヒトは地球上での支配を確立してきたのだと考えられてきた。しかし私たちは、世界をありのままに受け止め、論理に従って情報分析し、最適な判断を下しながら、次から次へと立ち起きてくる事態に対処しているのではない。多くの場合、私たちは必ずしも理屈で説明のできるのではない仕方で行動している。私たちの行動は気づかない所に仕組まれた心の働きによっている。

私たちは厳しく長い歴史を生き残ることで進化してきた。私たちの認知能力は進化のプロセスによって長い時間をかけて出来上ってきた。私たちの認知能力は意識の届かないレベルで様々な形で自動化されている。この仕組みによって私たちは自然淘汰の歴史を生き抜いてきた。個々の状況において有利な性質を備えた個体が生き残るというフィルターが繰り返しかかった結果が、私たちが進化によって獲得した性質である。このバイアスは基本的には自己中心的な利己的な性格のもので、自分の種の生存を優位にするために働いてきた。

この科目のタイトルは「価値と情動の認知科学」という。私たちの認知能力の相当部分は「良い」、「悪い」などの価値づけや、「好きだ」、「嫌いだ」というような情動に突き動かされた、論理では整理できない「よく分からない」ものである。この心の仕組みについて知ろうというのが私たちの主題である。
 
学修目標(到達目標)
私たちは現在、先端技術の恩恵を受け、ヒト、物、情報が高速に行きかうことのできる時代に生きている。しかし、それにもかかわらず、私たちは、様々な問題を理性でスマートの処理することなど全然できていない。世界は争いや混沌や矛盾に満ちているのである。しかし、世界はそれだからこそ、愛や情など、よく分からないが素敵な、人間らしさにあふれた、生きるに値するものなのである。私たちの生活は、必ずしも理知的ではないもののとらえ方、考え方によって支えられているところがある。

私たちヒトをヒトにしている、私たちの認知能力のゆがみについての知識を深めることは、私たちがグローバルな世界において互いに自己主張と協調の道を探り合いながら、持続可能な世界秩序を確立していくうえで、非常に重要な意味を持っている。なぜならば、私、そして、私たちという集団が自己主張をするときに展開する論理や判断は、それぞれの利益のためにバイアスがかかっている。だから、誰かの主張が唯一論理的であり、絶対に正しいということはありえないし、どこかに究極の正解・真実があるのかということも分からない。私たちは、自分たちの認知能力が非常に不確かなものであるということを踏まえたうえで、しかし、世界の人々と交わっていかなければならない。
 
授業概要
7つの異なるトピックをとりあげるが、毎回、「やってみよう」を必ず設定し、アクテイブ・ラーニングを十分に取り入れながら理解を深めることとする。とくに、この科目の特徴上、まず、人間の認知機能についての現象を実体験し、そのことをどう思うかの意見交換を行なうことを頻繁に取り入れる。したがって、授業プロセスとしては、予習よりもその後の復習を重視する。また、毎回の授業の最後に、ミニッツペーパーを課し、自分自身の言葉で学んだことを表現することを取り入れる。

1、知覚の潜在性
私たちは当たり前のように見聞きして生活している。しかしそれが何であるか,どのようなモノかを認める(認知する・知覚する)ときには,自分でも気づかないうちに自身の経験や情動,価値観などが大きく影響している。
AL:問いに対する意見交換、討論、錯視などのみえの体験等、ミニッツペーパー

2.記憶における潜在性
私たちは経験した様々な事柄を記憶しながら生活しているが,知識や思い出のように本人に意識される記憶だけでなく,本人には意識されない記憶も私たちの行動に影響を与えている。鮮明に憶えているはずの記憶が実はまったく正しくないこともある。記憶の基本的な仕組みと性質について,具体的な研究例や実験を交えて解説する。
AL:問いに対する意見交換、討論、主要事項のまとめの表現、ミニッツペーパー

3.思考・判断における歪み
私たちは様々な「認知バイアス」をもっている。それらが私たちの行動判断や価値判断を左右する例を挙げ,それぞれの状況における人々の行動について考える。
AL:判断思考に関する問いへの回答をクリッカ―使用ないしは挙手で実施、意見交換、討論、ミニッツペーパー

4.情動性の自己認識の潜在性
私たちは自分に生じた情動反応の「原因」が何であるかを自分自身でよく理解していると信じて生活している。しかし,実際には,意識されないレベルで解釈され,変容された結果が自覚されているに過ぎない。これらの自覚されないレベルでの処理が私たちの判断や行動に与える影響について,具体的な研究例を用いて解説する。
AL:情動で取り上げたトピックについての意見交換、討論、ミニッツペーパー

5. ヒトは言語をどのように使っているか
ヒトは言語を短時間のうちに高速に処理することで円滑なコミュニケーションを行っている。このとき、言語を自律的なものとして処理することもあれば、周辺依存的なものとして処理することもある。言語処理の自律的な側面とコンテクスト依存的な側面を考えるために、脳科学的、心理学的ないくつかの事例を紹介し、ヒトは言語とどのように向き合っているのかについて考える。
AL:言語にかかわるプチ心理実験を実施、意見交換、討論、言語の障害についてのビデオ視聴後の討論、ミニッツペーパー

6. 心の発達
ヒトは生まれながらにして大人としてのヒトの心を備えているわけではない。ヒトの心は、成長の過程で発達するのである。
例えば、ヒトの言語は音と意味の間の関係を、擬音語・擬態語に見られるような直感的に結びつけることが可能な音象徴的なものから、犬という動物について「犬」と言ったり "dog" と言ったりするような、直感的な結びつきが不可能なものに拡張することで、膨大で複雑な情報を処理するシステムであることができる。
ヒトは、成長するにしたがって、人の心の内部を理解できることができる。このような心の発達のおかげで、私たちは言語を使い、複雑な社会システムを作り上げ、そこで生きる動物たり得ているのである。
AL:言語発達に関するプチ心理実験実施・意見交換・討論、心の理論に関するプチ心理実験実施・意見交換・討論、ミニッツペーパー

7.人間の進化と価値・情動・理性・道徳(神経倫理学)
私たちの心はどのような仕組みで、あることを道徳的に正しいとか不道徳であると感じるのだろうか。いくつかの実験や研究についての考察を通じて、私たちが、すべて理性(論理)でもって判断を下しているのではないし、必ずしもすべてのことに100%の正しさというものなどないのだ、ということを理解する。人間が複雑な社会を構成する動物である上で重要な役割を果たす、道徳や感情が人類の進化の過程を通じて出来上がってきたという観点から、 私たち人間の本性について考えてみる。
AL:ビデオ視聴し意見交換・討論、モラル課題を実施し意見交換・討論、ミニッツペーパー

8.まとめの討論と学期末試験
AL:これまで学んだトピックについて自らの記述レポートを書く
試験:全トピックについて実施




 
評価方法と割合
評価方法
次項の項目及び割合で総合評価し、次のとおり判定する。
「S(達成度90%~100%)」、「A(同80%~90%未満)」、
「B(同70%~80%未満)」、「C(同60%~70%未満)」を合格とし、
「不可(同60%未満)」を不合格とする。(標準評価方法)
 
評価の割合
【授業には3分の2以上の出席を必要とする】
・(60)% 学期末試験
・(40)% 出席状況、ALAへの参加度、出席態度・積極性、各回の意見レポート含む

ただし、緊急事態が続く場合、評価の仕方が変わる可能性もある。その場合、別途履修者に連絡することとする。
 
授業時間外の学修に関する指示
予習に関する指示
基本的に予習は指示がある場合にのみしてくること。
そうでない限り、予習をしてこないで授業に臨んでください。理由は、科目の性格上、まず人間行動の現象についてみずから認識してもらうことで、毎回の授業をはじめます。
 
予習に関する教材
オンデマンド教材以外の指示・課題
 
復習に関する指示
各回の授業後は、学んだ知識を身につけるために教科書で確認してください。
 
復習に関する教材
オンデマンド教材以外の指示・課題
 
教科書・参考書
参考書
参考書 書名 ISBN
9784641150270
著者名
出版社
出版年
参考書 書名 ISBN
9784320053984
著者名
出版社
出版年
参考書 書名 ISBN
9784000063210
著者名
出版社
出版年
参考書 書名 ISBN
9784414311273
著者名
松井三枝、緑川晶(編)
出版社
誠信書房
出版年
2023
 
教科書・参考書補足
オリジナルテキスト:
金沢大学生協から購入するか,以下のURLにアクセスし,この授業に該当するリンク先からダウンロードして印刷の上,第1週目の授業に持参すること。
http://ilas.w3.kanazawa-u.ac.jp/students/subject/gs/gs_text/
※リンク先へのアクセスには,共通教育履修ガイダンスで配付する「金沢大学ID」が必要です。

 
オフィスアワー等(学生からの質問への対応方法等)
通常の対面授業がある期間の11:30-13:30に 担当教員研究室に直接お越しください。アカンサスメールでの対応は基本的にしません(月曜・水曜1限クラス)。

授業に関するお知らせは、LMSのタイムラインに掲示しますので、随時確認してください。

TA(授業補助者)がいるクラスでは、質問がある場合、そのTAに連絡することが可能です(場合によってTAへのメール対応可能)。
 
履修条件
特になし
 
特記事項
特記事項
LMSを利用した遠隔授業(時間限定のオンデマンド授業)を実施することがありますので、利用の仕方を第1回授業までに十分把握して臨んでください。
教室等の都合でクラスごとに受講法が異なることがあります。
受講法等に変更が生じた場合は別途履修者に連絡します。

今期は原則対面のみでおこないますが、授業形式を変更する場合のみ、その都度、その旨を連絡します。その場合のオンライン受講の際、アカンサスのなかのLMSにアクセスしてください。




 

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